あたり屋??事件

昨日は日記に書き込んだ後急いで学校を出て大阪のインド総領事館へと向かった。
四条で阪急に乗り換えて、梅田で御堂筋線に乗り換えて・・・。
事件はその御堂筋線の構内でおこった。
私は改札を通った後、駅の表示を見て、自分の行くべきホームを確認し、一歩歩き出した。
と、その一歩のところで、私の左手からやや急ぎ足で歩いてきた中年男性と接触してしまった。本当に軽い接触で、「あ、すみません」と言ってすぐにすれ違う程度であったと今でも確信している。
しかし、その男性は両足を投げ出して尻餅をつき、そのままうずくまって動かなくなってしまったのだ。私は男性が接触の際に落とした定期やジャンパーなどを拾い集め、何度も「大丈夫ですか」と声をかけた。男性は答えずに左足を抱えたまま痛がっている。
通りすがりの人が駅員さんを呼んでくれた。
駅員さんに対して男性は「左足が痛くて動けない。」と言った。
左足?転倒するシーンをずっと見ていたが、左足は全く地面に触れてすらいないはずだ。
軽すぎる接触で大げさに転倒したことは、彼が歩いてきたスピードが速かったことと、床で足を滑らせたことなどを考慮してなんとか考えられなくも無いが、左足?
「ぶつかってから何がなんだかわからなくなったが、左足の膝を強打したようだ。」との供述に背筋が凍った。彼はうぐぐぐぐ、と顔をしかめうめきつづけている。
「足はもともと怪我をされていたのですか?」と訊くと、「いやまったくそんなことはないのですがね・・・」との答えが返ってきた。
駅員が車椅子を持って戻ってくるまでの時間が、とても長く感じられた。
確信犯ではないだろうか。
あまりにも不審な点が多すぎるのだ。
お互いが不注意であったための事故なので、非はお互いにあるはずであるが、慰謝料が発生することは充分に考えられる。
それにしては私のような貧乏学生にあたるなんて客を間違ってるんじゃないのか・・・。
家族には迷惑をかけるわけにいかない。
一番強く出てきたのはこの思いだ。
戻ってきた駅員が車椅子に男性を乗せ、とりあえず駅員室(?)へと運ぶことになり、私も同行した。
男性は「急ぎの用事があるが、どうにも左足が痛くて動けない」という。男性の言った状況説明は、「歩いていたら突然止まっていたその子が動き出して、ぶつかった。まさか動くとは思っていなかった。その後のことは何がなんだか覚えていない。ただもう左足が痛くて痛くて・・・。」である。
私が説明しようとすると、駅員はパーテーションで区切られた場所に私を移して説明を聞いた。
私はパーテーションの向こうにいる男性を意識しながら小声で駅員に説明した。
①歩き出した最初の1歩のところで急ぎ足であった男性と接触したこと。
②確実に軽い接触であったはずなのに、男性が大げさに思えるような転倒の仕方をしたこと。
③尻餅をついた男性がなぜか左足が痛いと訴えていること。
軽い怪我をしたならまだしも、歩けなくなるような怪我をするようなひどい接触でもなかったし、転倒でもなかった。
④以前に怪我をしていたという事実もないと本人に確認したこと。
 
そして私はしっかりと見ていたので、以上の陳述に間違いはないということを述べた。
その上で、不審な点が多すぎるので、非常に不安であると言った。駅員は段々深刻な顔になっていったが、「本人さん同士のやりとりにおまかせすることになるんです。もしかすると弁護士さんをたてたりする必要があるかもしれませんが、それも本人賛さん同士で話し合ってもらわないと。」と言った。
やばい。
パーテーションの向こうの男性のうめき声が聞こえた。
血の気がひいていく。
家族の困った顔や、ゆすられる情景が浮かんでは消えた。
駅員が席を立った際に、携帯で電話をした。
とにかく不安で仕方がなかった。

電話した先は前の会社の同僚F岡。すぐに出てくれた。
私の状態がおかしいことに気が付くと、状況の説明を求め、名前や住所を求められたら、必ず相手の住所や名前、会社なども訊くようにいった。
とりあえず電話を切ると、駅員が再びやってきた。

「誠意を持って謝ってくれればもういいとのことですよ。」

あまりのあっけなさに、しばしの空白の後、考えすぎだったのか、と恥ずかしさがこみ上げてきた。
誠意を持って謝れ、というのも今思うとなんだかおかしい気がするが、不審に思い始めてから臨戦態勢のオーラは出していてもすまなそうな表情はかけらもしてなかったような気がするので、その辺からでたものなのかもしれない。

男性と駅員に謝罪し、ふらふらと駅員室を出た。
血の気がまだ戻ってこない。
恐怖が抜けず、周りを歩く人に過敏な反応をしつづけた。
F岡に再び電話をする。まだ指が震えていた。
釈放されました、というと、
「よかったなー。スリかな、とかいろいろ考えてたんだよ。弁護士に連絡しようとマジで思ったしね。」とF岡の声。
気が抜けた。
友達って本当にありがたい。

電車の中でも、他人の身体が触れるたびにびくびくした。背中を壁につけ、緊張したまま電車に乗っていた。
本町で中央線に乗り換えて堺筋本町で降りた。
7番出口を上がり、インド総領事館に向かう。
エレベーターに乗ってから、何階だか覚えていないことに気づき、一度降りて確認してからまた乗った。
既に受け取り時間は15分ほどオーバーしていた。
走って入ると、受付の人が「どのくらい走りましたかー?」とのんきに訊いてきた。「時間過ぎてるけど、その走りに免じてビザを渡しましょう」と言って、インドのパンフレットと新しくインドのビザが入った私のパスポートを本人確認の後に渡してくれた。
大阪に出てきた目的を達することができ、安堵した。

それでもやっぱりまだ恐怖はおさまらない。
一人で京都まで帰ることが怖くなる。

結局仕事帰りのF岡を呼び出して、京橋で夕飯をご一緒してもらい、おけいはんで帰った。梅田は通らずに。
恐怖体験の後、知った顔と会うというのは、こんなにも安心をくれるものなのだ。

F岡と話して、少しどもる自分に気がついた。ショックの大きさを客観的に思う。

しかし、本当になんだったのだろう。
ただの事故にしては不審な点が多すぎる。
私を見て、「ターゲットを間違えたー、こんなびんぼくさいのにぶつかる予定じゃなかったー」と思ってもっと確実なターゲットにぶつかることにしたのだろうか、などと想像は尽きない。

とにかく、ものすごい恐怖だった。
無事に終わった今ではネタにもなろうというものだけれど、翌日の今日思い出しただけでも凍りつく。
その記憶がまだはっきりしている今日、何かがあったときの記録
という意味もあり、日記に書いておく。